ダージリン(Darjeeling)
ダージリンはインドの北東、標高2000mを超える山々が連なるヒマラヤ山脈の麓に位置しています。
気候
冷涼な気候で、夏季を除くと一日の寒暖の差は10℃ほどあり、朝晩に霧が発生するのが特徴です。冬でも最低気温0℃を下回ることはなく、降雪も少ないため茶樹栽培には適しています。11~2月にかけては乾季なので、水不足に見舞われることもあります。
産地の歴史
イギリスが1840年に中国の茶の産地とよく似た気候であるこの地で茶の栽培に成功し、以後40近い茶園が開かれ、鉄道も敷設されたことにより大いに繁栄しました。現在でも、伝統的なオーソドックス製法をとっており、世界三大銘茶の一つとなっています。
貴重なダージリン茶
栽培面積は1万8000㏊ほどですので、インド国内の茶の銘産地と比較すれば、規模は小さめです。ダージリン茶は、年間わずかに1万t前後しか生産されない希少なお茶で、多くは高値で取引されます。
ダージリンのクオリティーシーズン
ファースト・フラッシュ
3月中旬から4月下旬にかけて最初のシーズンが訪れます。最初に芽吹く若々しいお茶です。冷涼な気候のため発酵がなかなか進まないため、茶葉は緑茶のように暗緑色をしています。
- 収穫時期:3月中旬から4月下旬
- 水色(お湯を注いだときのお茶の色)は、薄い黄色かオレンジ色
- グリニッシュと呼ばれる若々しい香りが特徴
- ストレートで飲むのがお勧め
セカンド・フラッシュ
5~6月に摘まれる2番茶です。ファースト・フラッシュの後にゆっくりと成長した葉ですが、虫などの害を受けたり、風や乾燥などの気候の影響を受けたりすることもあります。そのようなストレスを受けることにより、1年でもっとも充実した品質を生み出すともいわれています。いわゆる「マスカットの香り(マスカテル・フレーバー)」と呼ばれる芳香を醸し出すのがこのセカンド・フラッシュの特徴です。
- 収穫時期:5~6月
- 茶葉の外観は茶褐色、水色は明るいオレンジ色
- キレのある味わいと後味がよいのが特徴
- ストレートがお勧め
オータムナル
モンスーンや雨季の季節の後に訪れる、乾季の10~11月に収穫されるお茶です。生産量はあまり多くはありませんが、ファースト・フラッシュやセカンド・フラッシュとは異なる特徴を持ちます。
- 収穫時期:10~11月
- 外見は黒味がかった褐色
- 水色は「Rosy Darjeeling(紅茶のロゼ)」との異名をとった美しい赤味を帯びたオレンジ色
- 穏やかな香味
- のど越しもよくストレートがお勧め
同じダージリン茶でも、収穫時期により全く異なるテイストとフレーバー、色味を楽しむことができます。視覚的な色はその中でもこのように比較すると分かりやすい特徴です。その他の特徴と合わせて覚えておきましょう。
ダージリンの主な茶園
◆キャッスルトン
世界的にも有名な茶園の一つです。ダージリンの南部に位置し、その広さは約250㏊。小規模な茶園ですが、技術の高さはダージリンの最高峰ともいわれます。
全体的に風味はまろやかでバランスが良く、力強いマスカテル・フレーバーが特徴です。ファースト・フラッシュは草花に包まれているようなみずみずしい香気にあふれる紅茶として評価されますが、さらにセカンド・フラッシュの香味は秀逸で、他のダージリン茶の追随を許さず、コルカタのオークションにおいては何度も高値の記録を更新しています。日本での知名度も高く、人気があります。
かつて茶園内にあった建物がお城のように見えたことから、この名前が付いたといわれています。
◆プッタボン
ダージリンの最北部に位置し、長い歴史のある茶園の一つです。外科医のキャンベル博士が自宅で茶の栽培に成功したことによって、1847年に政府が苗床場を作りました。その苗を使って開かれた茶園です。茶園の名前は、「葉が豊かに茂るところ」という意味ですが、地形から名づけられたトウクバーという名前で呼ばれることもあります。
茶葉は、みずみずしく甘みがある香りが特徴で、ファースト・フラッシュはフレッシュでさわやかなフラワリー・フレーバーのバランスの良さが高く評価されています。また、セカンド・フラッシュは、マスカテル・フレーバーが凝縮した豊かな味わいが特徴です。
2009年からは、オーガニック農法を採用しています。
◆ジュンパナ
南向きの斜面に拓かれ、昼夜の寒暖の差が激しく、また霧の発生が多い地理的特徴をもつ茶園です。しばしばオークションでも高値をつけ、英国王室にも愛好されているという実績があります。
この茶園の名前は、「坂の小道」という意味ですが、Jungという名前の青年がトラに襲われたイギリス人を助けたことから名づけられたといった説などもあるようです。紅茶の生産が主ですが、オーダーによっては緑茶の生産もしています。
ファースト・フラッシュは緑茶のようなフレッシュな香りと淡い水色をもっています。また、セカンド・フラッシュは香り・渋み・水色のバランスが良いとされ、オータムナルは強い渋みと花のような甘みをもつと評価されています。
◆オカイティ
茶園のほとんどが東から南に向いており、絶好のロケーションを誇る茶園です。紅茶の生産が主ですが、セカンド・フラッシュ以降は、緑茶も生産します。上品で繊細な味わいが人気です。
ファースト・フラッシュは繊細で上品なフラワリー・フレーバー、セカンド・フラッシュはマスカテル・フレーバーを感じるしっかりとした味わい、オータムナルは個性的で、エキゾチックな香りを持つことが特徴です。
この茶園の名前には面白いエピソードがあります。もともと茶園の名前は、ランドゥーと言いました。1959年にエリザベス女王に茶を献じたところ、女王が「OK(オーカイ)」といったのでこの名前が付いた、あるいは、ネール首相が元ソ連首相デルガーニンにこの茶園の紅茶を贈ったところ「OK」と言ったというような「OK」から改名したというストーリーが残っています。
◆セリンボン
絶え間ない、厳しい管理を行っていることで知られる茶園です。それによってもたらされる高い品質は、オークションで最高値を記録したこともあります。
1995年からバイオ・オーガニック農法、1997年からはバイオ・ダイナミック農法を取り入れている点が特筆されます。そうした厳しさの中から生まれる茶は、香りも味わいも、優しく包み込むようなまろやかさであると評価されています。後味が良く、冷めても渋くなりにくいともいわれます。
※バイオ・ダイナミック農法
すべての生命は、「宇宙」の営みからも影響を受け、調和しながら生きているという考え方に基づいて行われる農業。農作業は、月や星々の運行に基づいて行われ、農薬と化学肥料は使用しない。有機栽培の一種。
◆グームティ
茶園の名前は「道の曲がり角」という意味。一部南東に面した斜面にも茶園が拓かれていますが、そのほとんどが北向きの斜面に位置します。ジュンパナ茶園の隣に位置していて、茶園内には森や滝が散在する美しい茶園です。
主に紅茶が生産されますが、オーダーによって緑茶も生産します。繊細な香りとふくよかな甘みを持つことが特徴で、花束のような豊かな香りで知られます。特にファースト・フラッシュは有名です。
◆マカイバリ
茶園の中にたくさんの森がある、自然豊かな茶園です。「マカイバリ」は、ネパール語で「とうもろこし畑」という意味ですが、イギリスの軍人が逃亡してこの地にトウモロコシ畑を切り開いたことからついた名前だといわれます。
1998年にオーガニック農法を、1992年にはダージリンで初めてのバイオ・ダイナミック農法を採用しました。紅茶のほかに緑茶も生産しています。冬は茶園を休ませて土づくりをしています。そのため、ファースト・フラッシュはさわやかな風味、セカンド・フラッシュは大地の力強さを凝縮したような重厚感のある味わいが魅力です。
◆リシーハット
リシーハットとは、ネパール語で「聖人の場所」という意味です。主に東向きの斜面に茶園が拓かれています。この茶園は、品種改良に熱心に取り組んでいる茶園として有名です。2010年からは、オーガニック農法を採用しています。
日照時間の長い東向き斜面の利点を生かして、それぞれのクオリティーシーズンのお茶の収穫時期を、他の茶園よりやや早めに生産しています。茶葉は、ダージリン特有の繊細な香りと、さわやかでシャープな香りを併せ持つといわれています。
◆アリヤ
茶園の名前は、この地に茶を植えた僧侶の名前に由来するといわれます。1885年の創業以来、技術革新に努め、セカンド・フラッシュまでは紅茶を生産し、雨季シーズンには緑茶を栽培しています。
オーガニック農法を採用、茶園を厳しく管理しているため、その品質には定評があります。他のダージリンとはやや異なり、バラの花のような甘美な香りが特徴です。



