「紅茶」とは何か。まずここから学習を始めましょう。
日本人が伝統的に親しんできた「緑茶」と、ダイエット志向の人に人気の「ウーロン茶」、そしてイギリスの代名詞のような「紅茶」は同じ植物から作られています。
この植物は、もちろん「茶」で、学名を「カメリア・シネンシス(Camellia sinensis)」といいます。
「緑茶」「ウーロン茶」「紅茶」の違い
植物には「酸化酵素」という物質が含まれています。リンゴの皮をむいてしばらく放置すると、しだいに茶色に変化しますが、あの現象が「酸化」です。茶葉にも同じように酸化酵素が含まれており、採取したあとでこれを活性化するように加工することで、「発酵(※)」が始まりウーロン茶や紅茶となります。つまりこれら3つのお茶の違いとは、製造法の違いです。
製造方法
3つとも、最初に茶の木から茶葉を採取し、その後加工工程に分かれます。
緑茶
摘み取り後すぐに加熱し、酸化酵素のはたらきを止めるのが「緑茶」です。
酵素はたんぱく質であり熱に弱い性質を持ちます。その性質を利用し、加熱することによってそれ以上酸化させないようにする、つまり発酵させないよう製造されると「緑茶」となります。緑茶は、主に日本や中国で生産されています。
また原産地の中国では、緑茶を菌類で発酵させて(これを「後発酵」という)作るお茶もあり、ダイエット効果が高いとしてよく知られているプーアール茶は、黒茶と呼ばれる後発酵させたお茶です。後発酵させたお茶には、黄茶もあります。
なお、日本の緑茶は茶葉に熱を加える際に「蒸す」方法を用いますが、中国では「炒る」方法を用います。
ウーロン茶・紅茶
発酵させないお茶(不発酵茶)の「緑茶」に対して、ウーロン茶と紅茶は発酵工程が加わります。
まず、どちらも茶葉を摘み取った後に、葉をもんで酸化発酵をさせます。ある程度のところで熱を加えて発酵を途中で止めてしまうのがウーロン茶です。発酵の程度によっていくつかの種類に分けられます。弱い発酵で止めてしまうのが「白茶(はくちゃ)」、さらに発酵をすすめるのが「青茶(あおちゃ)」で、この青茶の種類の一つとして「ウーロン茶」があります。こうした半発酵のお茶は主に中国で生産されます。
「紅茶」は酸化酵素のはたらきを高め、茶葉が黒っぽくなるまでじっくりと発酵させて作られたお茶です。中国式の作り方とイギリス式の作り方とがあります。
最も歴史が浅い紅茶
今では当たり前のように3つの種類があるお茶ですが、歴史的には紅茶は非常に若いお茶と言えます。
植物としての「茶」は中国が原産とされ、古くから飲まれていたのは緑茶と考えられています。中国の湖南省長沙に「馬王堆漢墓(まおうたいかんぼ)」と呼ばれるお墓があり、1950年代に発掘が進みました。特に1972年の発掘では被葬者(女性)の遺体の肌にまだハリが残っており、まるで生きているかのような状態であったことで世界的に話題となったこの墓では、副葬品にも貴重な工芸品や帛書(はくしょ)などが数多く含まれており、その中に「茶」を意味すると考えられる文字があったとされています。
紀元前2世紀は日本では弥生時代が始まった頃であり、伝説としてのお茶はもっと時代を遡ります。少なくとも現在明らかなところでは、中国では紀元前2世紀ごろには既にお茶が飲まれていた可能性が考えられます。日本には、聖徳太子の時代に仏教などの大陸文化とともに伝わったといわれていますが、記録として残っているのは平安時代に入ってからのことです。
このように古い歴史を持ち記録にも残っている緑茶ですが、ウーロン茶と紅茶に関しては、時代が近代に近づきます。詳しくは「Lesson8~10 紅茶の歴史と文化」で学習しますが、ウーロン茶らしきお茶が作られるようになったのは17世紀後半、紅茶に至っては18世紀の後半ごろのことです。つまり、ウーロン茶も紅茶もとても歴史の浅いお茶だということができます。
紅茶の急激な広がり
普及という点では、産業革命とともに歩んだ紅茶の勢いはまさに爆発的でエネルギッシュなものでした。
最初は非常に高価で王侯貴族の間で珍重されていたものが、200年足らずの間に全ての階級の人々の口に入る飲み物へと変化します。その間に様々な文化と産業を育み、社会を変え、世界の歴史を形作ったのが紅茶です。

