アヘンとは

アヘン（阿片、鴉片）は、芥子の実から作られる麻薬の一種で、現在でも、薬の原料として広く利用されています。

特にインドは、モルヒネの原料となる（合法的な）アヘンの生産・輸出では世界一です。アヘンには、10％ほどのモルヒネが含まれており顕著な薬効があるため、古くから存在は知られていました。

今日では、他の麻薬に比べて麻薬性は相対的に少ないとされていますが、過度の服用は幻覚症状を引き起こし重篤な中毒に至ります。また、アヘンはアヘンよりも麻薬性の強いヘロインの原料となるため、厳しく取り締まりが行われています（※4）。

茶とアヘン貿易

対中貿易赤字にあえぐイギリスは、このインド産アヘンに目を向けたのです。1790年代から、イギリスは植民地インドのアヘンを中国に密輸入し、その販売代金と引き換えにして「茶」を輸入する「アヘン貿易」を始めました。東インド会社はリスクを避けるために、運搬船、交渉人、使い走りに至るまで、全ての人材を民間に委託することで「表向き」の無関係を装います。

貿易収支の逆転

清にもたらされたアヘンは、たちまちのうちに身分の上下を問わず人々の間に浸透します。需要は年々拡大し、ついに今度は逆に清からイギリスへ銀が流出する事態となります。1820年代には両国の貿易収支は逆転、清がイギリスに支払を迫られることとなったのです。

イギリスと清のアヘン密輸を巡る戦い

欧米諸国に広がる清へのアヘン密輸

アヘンで暴利を得たイギリスにならって、フランスなどの欧米諸国も清へのアヘン密輸を始めました。こうした事態に対し清も取り締まりを強化します。

1839年に広東に派遣された林則徐は、強硬姿勢でアヘンの撲滅に取り組みました。諸外国から送られる賄賂を拒絶し、外国人商人に対してはアヘンの即時放棄を命じます。従わない国の商館は武力で封鎖、水や食料の供給を絶つことも辞さじ、という強い態度に、諸外国がアヘン貿易を断念していきましたが、イギリスだけは引き下がりませんでした。

諸外国が撤退するということは、清国内のアヘンの需要に対して供給不足が生じることを意味します。当然、アヘンの価格は高騰し得られる利益はさらに増大するわけですから、この商機を逃す手はありません。

アヘン戦争の勃発

両国の緊張が高まる中、香港の九龍（クーロン）で、酒に酔った英国船員が現地の農民を殺害するという事件が起きます。清は犯人の引き渡しを求めましたが、イギリスは治外法権を主張。林則徐は、全てのイギリスとの貿易を停止させ、商館をすべて封鎖するという強硬な態度をとります。

そこにたまたまやってきた東インド艦隊のフリゲート艦2隻が到着、外交官のチャールズ・エリオットは反撃を開始、これによりアヘン戦争が勃発しました。

 

イギリス軍の勝利と南京条約

その後増強されたイギリス軍の前に清の船団は壊滅、アモイや上海が占領され、内陸の南京攻略を畏れた清は、1842年降伏を認めて南京条約に署名します。

その内容は屈辱的なものであり、やがて清の滅亡、中国の列強諸国による植民地化へと結びついていくものでもありました。こうして「茶」は、アメリカだけではなくアジアの歴史も大きく動かすこととなったのです。

 

※4　アヘン：日本では「麻薬及び向精神薬取締法」と「あへん法」が、アヘンやヘロインの使用、所持等を禁止している。同法により、原料のケシの栽培自体も禁止となっている。